
中小企業のAI活用が定着しない6つの原因と定着させる3ステップ
公開日:2026年8月9日
「AIを導入したのに、社内で誰も使っていない…」
この記事を監修している佐藤誠一は、企業のAI活用を教える研修講師です。
この記事でわかること
- AI活用が定着しない6つの原因
- 定着する会社に共通する4つのこと
- AI活用が進んでいない業務7選
- AI活用を定着させる3ステップ
- AI活用が定着した2つの実例
中小企業のAI活用が広がっていない実態
AIの話題は増えていますが、中小企業の社内で実際に使われている場面はまだ限られます。
AI活用の実態
- 生成AIを導入している中小企業はまだ一部
- 大企業より中小企業のほうが小さく試しやすい
- 人手不足を補う手段としてAIが実用段階に入った
生成AIを導入している中小企業はまだ一部
企業全体で見ると、生成AIの導入はこの1年で一気に進みました。
生成AIとは、文章や画像などを作り出すAIのことです。
情報処理推進機構(IPA)の調査では、生成AIを「導入している」と答えた企業が2024年度の22.6%から2025年度は44.0%へ倍増しています。

出典:「DX動向2026」(独立行政法人情報処理推進機構)図表3-5・28ページ
ところが中小企業に絞ると、見える景色は別のものになります。
東京商工会議所が会員の中小企業に聞いた結果を、1年前と並べて以下にまとめました。
| 回答 | 2023年4-6月期 | 2024年4-6月期 |
|---|---|---|
| 活用している | 5.7% | 11.7% |
| 今後活用を検討している | 29.6% | 33.5% |
| 活用する予定はない | 64.7% | 54.9% |
活用している会社は1年で5.7%から11.7%へ倍近くに増えたものの、1割の水準です。
2024年5月の調査であり、中小企業だけを対象にした公的な調査としては、これが最新の数字になります。
参考:東京商工会議所|中小企業のための「生成AI」活用入門ガイド 第7版 3ページ
規模による差は、その後の調査でも続いていました。
IPAの2025年度調査では、従業員100人以下の企業で「関心はあるがまだ特に予定はない」と答えた割合が34.6%にのぼりました。
同じ調査は、従業員規模が上がるほどAIの導入が進んでいる、と結論づけています。

出典:「DX動向2026」(独立行政法人情報処理推進機構)図表3-4・27ページ
方針を決めている会社の割合にも開きがありました。
生成AIを活用する方針を定めている企業の比率は、2024年度調査の時点で大企業が約56%・中小企業が約34%です。
参考:総務省|令和7年版情報通信白書(概要)6ページ
全体では生成AIの導入が急速に進む一方、中小企業だけを見た公的な調査では、活用が1割台・方針の策定が3割台にとどまっています。
大企業より中小企業のほうが小さく試しやすい
活用の割合では遅れが目立つものの、小さく試しやすいのはむしろ中小企業のほうです。
従業員10〜100名の会社であれば、AIを使う社員と決裁者の距離が近く、その場で試すと決められます。
試すときの条件を大企業と比べて以下にまとめました。
| 比較軸 | 大企業 | 中小企業 |
|---|---|---|
| 決めるまでの階層 | 部門長・情報システム部門・稟議 | 経営者への直接相談 |
| 試す単位 | 部署単位・全社単位 | 社員数名単位 |
| 効果の確認 | 部門横断での効果測定 | 担当者の作業時間で確認 |
| やめるときの判断 | 関係部署への説明と調整 | 経営者の判断で即中止 |
法人AI研修の現場で見てきたかぎり、AIで何とかしたいと切実に思っている社員が1人でもいる会社は、その業務から試し始められます。
小さく始めて合わなければすぐ引き返せる余地は、規模の小さい会社のほうが大きいです。
人手不足を補う手段としてAIが実用段階に入った
中小企業の人手不足は、2024年の調査時点で6割を超える会社が抱えています。
調査の結果
2024年7月に2,392社が答えた調査では、人手が「不足している」企業が63.0%でした。
さらに人手不足の企業のうち65.5%が、事業運営への影響を深刻だと回答しています。
中小企業のAI活用が定着しない原因
AI活用が社内に定着しない会社には、共通した原因があります。
法人AI研修の現場で見えてきた6つは以下のとおりです。
定着しない原因
- AIに否定的な人が多い会社では広がらない
- 経営者の目的が現場に伝わっていない
- 推進役が決まらず誰も動かない
- 最初から自動化を狙って挫折する
- 無料版のまま使い続けて品質が上がらない
- 費用対効果を測らないまま契約する
AIに否定的な人が多い会社では広がらない
AIに否定的な人が多い会社では、ツールを契約しても利用が広がりません。
法人AI研修の現場で見てきたなかで、定着するかしないかを一番よく言い当てたのは社内の空気でした。
研修中に「うちの仕事には合わない」と口に出す人がいると、周囲の手も止まりやすいです。
否定的な空気ができあがると、興味をもっていた社員も社内では使いにくくなります。
否定は理解不足ではなく、失敗を避けたい現場では自然な反応でしょう。
否定的な声が多いままAIツールの契約だけを進めると、利用者が最初の数人から増えないまま止まります。
経営者の目的が現場に伝わっていない
AI活用が止まる原因としてよくあるのが、経営者の狙いが現場に伝わっていない状態です。
経営者は業務の効率化や売上を見ているのに対し、社員には研修の案内だけが届いているためです。
研修の前に経営者から聞く狙いと、当日の社員の受け止め方を以下にまとめました。
| 立場 | AIに対する姿勢 |
|---|---|
| 経営者 | 社員に使ってもらい業務の効率化と売上アップにつなげてほしい |
| 現場の社員 | やらされていると感じたまま研修に参加している状態 |
目的が共有されないまま研修だけを入れると、社員は業務に戻ってから誰もAIを開きません。
推進役が決まらず誰も動かない
推進役が決まっていない会社では、AI活用が誰の仕事にもなりません。
情シスの専任がいない中小企業では、AIの担当が既存の業務の上に乗ります。
担当が決まらないまま止まりやすい作業は以下のとおりです。
止まる作業
- 使うツールの選定と契約
- 社内の入力ルールの整理
- 使い方を教える場の用意
- 使った結果の共有
最初から自動化を狙って挫折する
いきなり自動化から始めようとして、動かないまま止まる会社もあります。
自動化が動くのは、業務の手順が先に固まっている場合のみです。
研修の現場で相談を受ける進め方と、起きることを以下にまとめました。
| やりがちな進め方 | 起きること |
|---|---|
| 問い合わせ対応をまるごと自動化 | 例外の処理が多く確認の手間が増加 |
| 議事録の作成から共有まで一気に接続 | 止まった箇所を特定できない |
| 全部署へ同時に展開 | 使わない部署の費用だけが残る |
手順が固まっていない段階で自動化に入ると、途中で止まったまま誰も触らない仕組みになりやすいです。
無料版AIのまま使い続けて品質が上がらない
無料版のAIのまま使い続けている会社では、AIの出力が業務で使える水準まで上がりません。
無料版は試すための範囲が用意されており、長文の処理や社内データの読み込みは有料の機能に含まれています。
例えば私の場合、業務で契約しているツールと月額は以下のとおりです。
| ツール | 月額 | 使っている業務 |
|---|---|---|
| Claude Code | 200ドル | 記事制作とシステム開発 |
| ChatGPT | 20ドル | プログラムを書くときの補助 |
| Google Workspace | 約5,000円 | Geminiでの校正・オンライン会議 |
| n8n | 約4,000円 | システム開発のバックエンド |
| Genspark | 約3,000円 | 法人AI研修。顧客の環境に合わせるため |
5つ合わせて月約4万5000円で、記事制作以外の業務にも同じツールを使っています。
海外のサービスはドル建てなので、為替によって支払額が上下します。
同じ構成をそのまま真似する必要はありません。
業務で使うなら有料の契約が要る点を、目安として見てください。
無料版のままで止まっている会社では、AIは使えないと社内で評価されて終わります。
費用対効果を測らないまま契約する
契約したあとに社内で説明できなくなる原因が、費用対効果を測らないまま始める進め方です。
AIの効果は工数の変化として出るので、契約前の業務の状態を記録していないと比べる対象がなくなります。
記録が残っていない項目と、更新月に起きることを以下にまとめました。
| 記録が残っていない項目 | 更新月に起きること |
|---|---|
| 対象業務にかけていた時間 | 短くなったのかを答えられない |
| 使っている人数と回数 | 誰が使っているのかを把握できない |
| 外注していた費用 | 社内対応に置き換わったのかを比べられない |
| 出力の手直しにかかる時間 | 手間が減ったのかを説明できない |
判断の材料がそろわないまま、契約を続けるか止めるかを決める場面が来るでしょう。
中小企業のAI活用が定着する会社に共通すること
法人AI研修の現場で見てきたなかで、AIが社内に残った会社にはいくつか共通する状態がありました。
AI定着の共通点
- 業務に切実に困っている社員がいる
- 対象業務を1つに絞って始めている
- 経営者が現場の困りごとから選んでいる
- 成果が目に見える業務から入っている
業務に切実に困っている社員がいる
定着した会社には、業務が本当に忙しく、AIで何とかしたいと真剣に思っている社員がいます。
勉強のために参加した人と、目の前の仕事を片付けたい人では、研修中の質問の量が違いました。
切実に困っている社員がいる会社ほど、質疑が途切れず研修が活発になります。
※私がAIを勉強し始めたのも、子どもが生まれて育児と仕事の両立が難しくなったときでした。
勉強がしたかったのではなく、時間が足りずに困っていただけです。
切実に困っている社員が1人でもいる会社では、AIが業務に残りやすいでしょう。
対象業務を1つに絞って始めている
最初に手を付けた業務が1つだけだったのも、AIが定着した会社に共通しています。
同時に複数の部署で始めた会社よりも、業務を1つに絞った会社のほうが、使う人が増えていきました。
絞り方には共通する特徴があります。
絞り込みの共通点
- 対象は1部署の日常業務だけ
- 毎週かならず発生する作業
- 全社への展開はあとまわし
経営者が現場の困りごとから選んでいる
定着した会社の経営者は、効率化する業務を自分だけで決めていませんでした。
現場に何が大変かを聞いてから、対象の業務を選んでいました。
現場から出てきた業務は、経営者が想定していたものと違う場合もあります。
実際にしていた聞き方は以下のとおりです。
| 経営者が聞いていたこと | 現場から出てきた答えの例 |
|---|---|
| いま一番人手が足りない工程はどこか | 増員より先に見直すべき業務 |
| 途中で手が止まってしまう工程はどこか | AIに任せられる作業の切れ目 |
| 毎回ゼロから作り直している資料はどれか | 型を作れば使い回せる業務 |
| 締め切り前に残業が増えるのはどの時期か | 業務が集中する時期と原因 |
社員の言葉で出てきた困りごとから業務を選んだ会社は、選んだ業務でAIを使い続けています。
成果が目に見える業務から入っている
入口に選ばれていたのは、成果が目で見てわかる業務でした。
研修でも、スライドや画像が目の前で出てくると、受講者から質問が増えます。
文字が並ぶAIの出力より、図やスライドが出てくるほうがインパクトがあります。
成果の見え方で業務を分けると以下のとおりです。
| 成果が見えやすい業務 | 成果が見えにくい業務 |
|---|---|
| スライドの下書き作成 | 長い資料の要約 |
| 提案資料に使う画像の作成 | 情報収集の下調べ |
| データからのグラフ作成 | 文章表現の手直し |
目で見て確かめられる業務から入った会社は、2つ目の業務へ進むまでが早いです。
中小企業でAI活用が進んでいない業務7選
法人AI研修の現場で聞くと、効率化したい仕事として名前が挙がるのに、社内では使われていない業務があります。
7つの業務と、AIに任せられる内容を以下にまとめました。
| 業務 | AIで効率化したいこと | 使われていない理由 |
|---|---|---|
| スライド作成 | 資料の構成案と下書き | AIへの指示の出し方がわからない |
| 画像作成 | 説明用の図やイラスト | 業務でAIに作らせる発想がない |
| 動画制作 | 構成と原稿の作成 | 専門業者に頼む作業だと思い込んでいる |
| Excelの関数設定 | 関数やマクロの作成 | AIに聞けば作れると知らない |
| メール文の作成 | 返信文の下書き | AIの文章をそのまま使えず断念 |
| 仕事の相談 | 判断に迷ったときの相談相手 | AIを相談相手として見ていない |
| 過去の社内データの活用 | 過去資料をもとにした提案 | AIに入力してよい範囲がわからない |
1つずつ、実際にどう使えるかを解説していきます。
①スライド作成
スライド作成は、わかりやすい資料を作りたいと挙がる一方で、指示の出し方で止まりがちです。
AIに渡す情報
- 伝えたい結論と聞き手
- 資料を使う場面と持ち時間
- 入れたい数字や実績
②画像作成
効率化したい業務として名前が挙がりにくいのが、画像作成です。
AIに伝える内容
- 何を説明する絵か
- 使う場所と縦横の比率
- 入れたい文字と雰囲気
③動画制作
動画制作は専門の作業とみなされていて、社内ではほとんど試されていません。
AIに任せる工程
- 台本と読み上げ原稿
- 字幕やテロップの文章
- 章立てと撮影カットの整理
④Excelの関数設定
AI研修で毎回のように質問が出るのが、表計算ソフトの関数やマクロの設定です。
AIに伝える項目
- 表の列名と入っているデータ
- やりたい集計や判定の内容
- 使っているソフトの種類
⑤メール文の作成
メール文の作成は、AIから出てきた文章をそのまま使えずに終わりがちな業務です。
AIに伝える背景
- 相手との関係と過去のやり取り
- 断る・詫びるなどの目的
- 社内で使っている言い回し
⑥仕事の相談
人に聞くものだと思われて後回しになっているのが、仕事の相談です。
AIに相談する例
- 断りづらい依頼への返し方
- 新しい取り組みの進め方
- 見積もり条件の整理
⑦過去の社内データの活用
過去の社内データの活用は、AIに入力してよい範囲がわからず手前で止まっています。
AIで試せる例
- 過去の提案書をもとにした改善案
- 問い合わせ履歴からの回答文
- 日報を集めた業務の振り返り
中小企業がAI活用で得られる効果
AI活用が社内で回り始めた会社では、日々の業務に4つの変化が出てきます。
AI活用の効果
- 人手不足のまま業務量を吸収できる
- 属人化していた作業を引き継げる
- 外注費を社内対応に振り替えられる
- 判断材料を早く集められる
人手不足のまま業務量を吸収できる
AI活用が定着した会社では、人を増やさないままでも扱える仕事量が増えます。
人が手を動かしていた工程そのものが、AI側へ移るためです。
例えば私の場合、記事制作から人の手が離れた作業を以下にまとめました。
軽くなった作業
- 記事の執筆作業そのもの
- 公開情報を調べるリサーチ
- 目視で全件見ていたファクトチェック
属人化していた作業を引き継げる
特定の社員しかできなかった作業を他の人へ渡せるようになるのも、AI活用の効果です。
ベテランが頭のなかでやっている判断を、AIへの指示として書き出せるためです。
見積書の作成なら、値引きをどこまで認めるか、どの条件で上長に相談するかを文章にしてAIに渡します。
経験の浅い社員が同じ指示を使えば、ベテランが作ったものに近い見積書ができあがるでしょう。
ただし、自社にしかない情報を集めて整理し、言葉にする工程は、私も人に残しています。
そこだけを人が担えば、残りの作業は担当者を選ばずに引き継げます。
外注費を社内対応に振り替えられる
外に出していた仕事の一部は、社内で対応できるようになります。
専門の担当者がいない会社でも、AIを使えば一定の品質まで自分たちで作れるでしょう。
例えば私の場合は、外に出していた記事制作を社内で回すようになりました。
1本ごとに費用が発生する外注に対し、社内で対応すればツールの月額だけで済みます。
費用のかかり方を並べると以下のとおりです。
| 項目 | 外注する場合 | 社内で対応する場合 |
|---|---|---|
| 費用のかかり方 | 1本ごとの制作費 | 本数によらない月額 |
| 費用の目安 | 1本あたり1万円程度(自社の相場感) | 月4万5000円(ツール5つの合計) |
| 品質の決まり方 | 発注先の書き手の経験 | 社内で決めたルールとAIの設定 |
| 社内に残るもの | 完成した記事 | 記事と作り方の手順 |
金額は記事制作の場合の一例で、外注の相場も公的な統計ではなく私が自社の取引で見ているものです。
前述のとおりツール代は記事以外の業務にも使うので、記事だけの費用ではありません。
自社が外に出している業務に置き換えると、1本ごとに積み上がる費用を定額のツール代に振り替えられるかが見えてきます。
判断材料を早く集められる
判断に使う材料を早くそろえられるのも、AIを業務に入れた会社に出る変化です。
調べてまとめるまでの作業を、AIへ任せられます。
短い時間で用意できるようになる材料を以下にまとめました。
集まる材料
- 過去の日報や見積もりからの傾向
- 議事録から抜き出した決定事項
- 案ごとのメリットとデメリット
中小企業がAI活用を定着させる3ステップ
AI活用を定着させるまでの手順は、3つの段階に分かれます。
大事なのは順番で、飛ばすと途中で止まりやすいです。
AI定着の手順
- 現場に聞いて困っている業務を洗い出す
- 成果が目に見える1つに絞って試す
- 手順が固まった業務から自動化する
ステップ1|現場に聞いて困っている業務を洗い出す
最初のステップは、社員が困っている業務を聞いて回る作業です。
AIに任せる業務を経営者だけで決めると、実際に手を動かす社員の切実さとずれた業務を選びやすくなります。
私が担当する法人AI研修も完全オーダーメイドで、事前に企業へヒアリングしてからカリキュラムを作ります。
同じ業種でも、時間を取られている作業が会社ごとに違うためです。
聞き取りは会議で挙手を求めるのではなく、1人ずつ個別に時間を取ります。
人前では、切実な困りごとほど口に出しにくいでしょう。
現場への質問例
- 今週いちばん時間を取られた作業は何ですか?
- 毎週かならず発生する手作業はありますか?
- 誰かに渡せるとしたら、どの作業ですか?
- 1回あたり何分かかっていますか?
- 手順を口で説明できる作業はどれですか?
ステップ2|成果が目に見える1つに絞って試す
同時に何本も走らせず、最初に試す業務を1つに絞るのがステップ2です。
3つも4つも並行させると、どれも中途半端に終わり、社内に手応えが残りません。
絞るときは、すでに触れたとおり成果が目で見てわかる業務を優先します。
リストから1つを選ぶ基準を以下にまとめました。
| 絞り込みの基準 | 見るところ |
|---|---|
| 成果が目で見てわかる | できあがったものを会議で見せられるか |
| 毎週くりかえし発生する | 月に何回発生している作業か |
| 手順を口で説明できる | 担当者が作業の流れを話せるか |
| 困っている本人が試せる | 声を上げた社員が自分で回せるか |
| 失敗しても業務が止まらない | 納期や請求に響かない作業か |
1つに決めたら、同じ業務を何度もAIに任せ、うまくいった頼み方を書き残していきます。
頼み方と手順が固まった業務が1つできれば、ステップ3の自動化に進めます。
ステップ3|手順が固まった業務から自動化する
自動化に進むのは、手順が固まった業務だけです。
前述のとおり、最初から自動化を狙うと、設定の途中で止まって誰も使わない仕組みが残ります。
例えば私が作った記事作成エージェントも、同じ順番で組み立てました。
最初はプロンプトを登録して使い回し、手順が固まってからエージェントに移しています。
いまも下書きまでを自動にして、公開は人が判断しています。
業務の状態ごとに、次にやることを以下にまとめました。
| 業務の状態 | 次にやること |
|---|---|
| 思いついたときだけAIを使っている | うまくいった頼み方を保存する |
| AIへの頼み方が固まってきた | 同じ業務の担当者全員に配る |
| 複数人が同じ手順で回している | 前後の作業をつなげて1本の流れにする |
| 流れが止まらず回っている | 人が判断する工程だけ残して自動化する |
社内に開発できる人がいない段階でも、ここで止まる必要はありません。
外部に相談するときは、対象業務の手順書と1回あたりの作業時間を用意します。
聞くのは「どこまでを自動にして、どこから人が見るか」の線引きです。
手順が固まった業務から順に自動化していくと、AI活用は社内の仕組みとして残っていくでしょう。
中小企業のAI活用を社内に定着させる運用の作り方
AI活用が社内に残る会社は、使い始める前に運用を決めています。
AI定着の運用
- 推進役は困っている部署から選ぶ
- 最初の3ヶ月は成果ではなく使う回数を増やす
- 機密情報の入力ルールを先に決める
- AIの出力を確認する担当を決める
- 外部研修は自社に手順が残るよう使う
推進役は困っている部署から選ぶ
AI活用の推進役は、いま業務に一番困っている部署から選びます。
前述のとおり、AI活用が定着した会社には、業務が本当に忙しくAIで何とかしたいと考えている社員がいたためです。
推進役を詳しい社員に任せる進め方もありますが、専任の担当者を置く余裕がない会社では候補が挙がりません。
推進役に向く候補を以下にまとめました。
| 推進役の候補 | 向く場面 |
|---|---|
| 残業が続いている部署の担当者 | 作業時間を減らしたい動機が強いとき |
| 複数の業務を兼務している社員 | 部署をまたいで声をかけたいとき |
| すでに自分でAIを触っている社員 | 社内に使い方を聞ける相手がいないとき |
| 社長直下でAI活用を任された担当者 | 経営の意図を現場へ伝えたいとき |
困っている度合いで推進役を選ぶと、AIを使う理由が社内で共有され、活用が定着しやすくなります。
最初の3ヶ月は成果ではなく使う回数を増やす
成果ではなく使われた回数を数えるのが、最初の3ヶ月の運用です。
導入したばかりの時期は、成果が出るほど社員がAIを使い込めていません。
削減できた時間を1ヶ月目から報告させると、数字が出ないまま「効果がない」と判断され、運用が止まります。
月ごとに見る指標を以下にまとめました。
| 時期 | 見る指標 |
|---|---|
| 1ヶ月目 | AIを1回でも使った社員の人数 |
| 2ヶ月目 | 1人あたりの週の利用回数 |
| 3ヶ月目 | AIを使っている業務の数 |
| 3ヶ月を過ぎてから | 作業時間の変化 |
数える対象を回数にすると、社員がAIに触る回数も増えていきます。
3ヶ月目までは、見る指標を成果から回数に置き換えてみてください。
機密情報の入力ルールを先に決める
機密情報の入力ルールは、社員がAIを使い始める前に決めます。
法人AI研修の現場で一番多く受けるのは、機密情報の扱いに関する質問です。
どこまで入力してよいのか、情報が漏れることはないのか、と受講者から聞かれます。
入力してよいかの判断を社員ごとに任せると、不安な人はAIを触らなくなり、気にしない人は何でも入力します。
先に決めておく項目を以下にまとめました。
| 決める項目 | 決め方の例 |
|---|---|
| AIに入力してよい情報 | 社外に公開済みの資料・自分で書いた文章 |
| AIに入力しない情報 | 顧客の氏名・連絡先・見積書の取引条件 |
| 使ってよいツール | 会社が契約した法人向けプランに限定 |
| 判断に迷ったときの相談先 | 総務・経営者など窓口を1つ決めて周知 |
入力してよい範囲を先に共有してから、社員にAIを使ってもらいましょう。
AIの出力を確認する担当を決める
AIが出した文章を確認する担当を決めておくと、間違ったまま社外に出るのを防げます。
私が担当したAI研修でも、AIの答えが間違っていたときの対処は質問の多い話題です。
確認する担当には、対象の業務を一番わかっている社員をあてます。
同じ間違いがくりかえし出るときは、人の確認を増やしても解決しません。
例えば私の場合、納品した記事の誤字を指摘されたときは、チェックの回数を増やさずAI側のルールを足して直しました。
人の作業ではなく指示のほうを直していくと、確認の負担が増えないまま運用を続けられるでしょう。
外部研修は自社に手順が残るよう使う
外部研修は、終わったあとに自社へ手順が残る使い方をすると効果が続きます。
研修の日に操作を覚えても、翌週に使う場面がなければ元に戻ります。
研修会社に依頼するときに決めておくことを以下にまとめました。
研修の依頼時
- 自社の業務を題材にしてもらう
- 使ったプロンプトを文書で受け取る
- 受講者が見返せる手順書を作る
- 研修後に質問へ答える回数を決める
AI活用が定着した2つの実例
ここからは、AI活用が業務に定着した2つの例を紹介します。
1つは自社で運用している記事制作、もう1つはAI研修を実施したメーカーの例です。
AI活用の実例
- 記事制作の実動時間を20分の1に短縮した
- あるメーカーで英語の翻訳がスムーズになった
記事制作の実動時間を20分の1に短縮した
自社の記事制作は、人が手を動かす時間が20分の1になりました。
ただし、最初からうまくいったわけではありません。
つまずき
AIで書いた記事をあまり手を入れずに納品し、クライアントから「ちょっと文章が下手になりましたか」と指摘されました。
対処として足したのは人間の編集時間ではなく、上手な文章の定義と執筆ルールをAI側に教え込むことでした。
人手を増やして品質を保つやり方では、AIを導入した意味が消えます。
| 段階 | 手法 | 実動時間 | うち編集・検品 |
|---|---|---|---|
| ① 手書き | 全部自分で書く | 18〜20時間(2万字の長尺記事) | 3〜4時間 |
| ② プロンプト | AIにプロンプトを登録して使う | 約6時間 | 記録なし |
| ③ AIエージェント | 工程ごとに役割を分けてAIに任せる | 1時間以内(短いと30分) | 30分〜1時間弱(最長1時間半) |
※実動時間は、AIの処理待ちを除いた人間の稼働時間です。記事を書く作業時間の約9割はAIの処理待ちになります。
手書きと比べて20分の1、プロンプトの時代と比べても6分の1以下に短くなりました。
なかでも負担が軽くなったのは、編集・検品の工程です。
一次情報の収集にかかる人間の時間はほぼゼロで、いまはクライアントの5媒体で月35本を制作しています。
ルールを仕組み側に移したので、記事制作へのAI活用は毎日の業務として定着しました。
あるメーカーで英語の翻訳がスムーズになった
最初の成果が英語の翻訳だった会社もあります。
研修後の変化
あるメーカーでAI研修を実施したのち、英語の翻訳がスムーズになったと報告を受けました。
担当者様はそれまで英語が苦手で、海外に向けたメールのやり取りをAIの翻訳で進めるようになったそうです。
中小企業のAI活用に関するよくある質問
最後に、中小企業のAI活用についてよくある質問をまとめました。
法人AI研修や商談の場で実際に聞かれた質問から選んでいます。
1つずつ答えていきます。
Q.中小企業のAI導入に使える補助金はありますか?
中小企業のITツール導入に使える国の補助金があります。
制度の概要は以下のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 正式名称 | 中小企業デジタル化・AI導入支援事業費補助金 |
| 通称 | デジタル化・AI導入補助金2026 |
| 旧称 | IT導入補助金 |
| 対象 | 中小企業・小規模事業者等 |
| 補助の対象 | ITツールの導入 |
| 事務局 | TOPPAN株式会社(独立行政法人中小企業基盤整備機構および中小企業庁の監督のもと運営) |
旧称のIT導入補助金で申請した経験がある会社にとっては、名称が変わった制度にあたります。
通称に年度が入っているとおり、対象や要件は年度ごとに更新されます。
申請を検討するときは、公式サイトで最新の内容を確認してください。
参考:中小企業庁/独立行政法人中小企業基盤整備機構|デジタル化・AI導入補助金2026
Q.コストをかけずにAIを導入できますか?
試すだけなら、ツール代をかけずに始められます。
生成AIの多くは無料で使える範囲があります。
お金をかけずに試せる作業は以下のとおりです。
無料で試せる作業
- 議事録の要約
- 長い資料の要点整理
- 社内文書のたたき台作り
- 用語や業界動向の下調べ
Q.中小企業に最適なAIツールはどれですか?
すべての会社に当てはまる1つのツールはありません。
研修の質疑では「ChatGPTとGeminiとClaudeはどう使い分ければいいですか」と毎回のように聞かれます。
私が答えているのは製品名ではなく、用途ごとに見る観点です。
| 用途 | 選ぶ観点 |
|---|---|
| 文章の作成・要約 | 長い文章を1度に読み込める容量 |
| 調べもの | 回答に付く出典URLの有無 |
| 資料・画像の作成 | 出力を社内で編集できる形式 |
| 議事録・文字起こし | 音声ファイルの直接読み込み |
| くりかえし作業の自動化 | 社内で使っているツールとの連携 |
AIツールは短い期間で機能が入れ替わり、いまの優劣がそのまま続くとはかぎりません。
自社の用途と観点を先に決めておけば、ツールを乗り換えるときも社内で迷いません。
Q.AIエージェントは中小企業でも使えますか?
使えます。
前述のとおり、決めた手順に沿って作業を進めてくれるのがAIエージェントです。
毎週くりかえしている作業が1人に集中している会社では、任せたときの効果が出やすいでしょう。
最初に必要なのは大がかりなシステム開発ではなく、くりかえしている作業を1つ選ぶ判断です。
Q.顧客対応もAIで効率化できますか?
問い合わせへの一次対応は、AIで効率化できます。
AIに先に任せられるのは、顧客へ送る返信そのものではなく、返信案の作成です。
問い合わせを内容ごとに分け、過去のやり取りをもとに文面のたたき台を作るところまでは対応できます。
ただし、AIが事実と違う内容をもっともらしく返してくる場合もあります。
これをハルシネーションと呼び、研修でも対処法を聞かれる話題です。
間違えると取引に響く項目は、送信前に人が確認します。
確認する項目の例
- 金額
- 納期
- 在庫
まとめ|中小企業のAI活用は切実な業務1つから始まる
中小企業のAI活用は、ツールを選ぶ前に、どの業務から始めるかを決めるのが先です。
記事の要点を以下にまとめました。
AI定着の要点
- 定着しない原因は6つある
- きっかけは切実に困っている社員
- 対象業務は1つに絞って試す
- 洗い出す・絞る・自動化の3ステップ
- 最初の3ヶ月は回数を数える
ここまで読んで、どの業務から始めるかを社内だけで決めきれないと感じた人もいるでしょう。
私は法人向けのAI研修に40回以上登壇してきました。
研修は決まった型で売っておらず、事前に業務をヒアリングして、その会社が一番困っている作業を題材にカリキュラムを組みます。
2時間の単発から合計8時間を3日に分けた回まで、組み方は会社によってさまざまでした。
本研修のあとに、2回にわたって質問へ答えた回もあります。
研修で何をやるのかは、こちらにまとめました。